この二週間のベルリンの変化は急激でした。折角ですから備忘録を兼ねてここにまとめておきます。ただし、これはあくまでも私にとっての印象に過ぎません。日記のようなものをつけているのでそれを参考にしながら書いていきます。さらに、ベルリンはドイツの中でも例外的な都市であり、特に南ドイツの状況とはかなり異なるはずです。
3月7日の土曜日。旧西ベルリンの中心地のクーダム通りのスタバに行きました。このとき初めて、持ち込みのタンブラーにコーヒーを注いでもらうサービスが禁止になったと聞きました。もっと前から日本のスタバではそうなっているとの情報をネットで見ていたので、とうとうベルリンもかと思った記憶があります。しかしあの頃は、若干お客さんが減っている感じはしたものの、ウイルスを警戒している雰囲気はほとんどありませんでした。
それから数日後に普通のパン屋をのぞいたところ、やはり持ち込みの容器でのコーヒーの販売は禁止になっていました。しかしこの頃もまだベルリンの市民生活はほぼ普通で、個人的にはベルリンらしいなと思っていました。堅苦しさというものが無く、アーティストとフリーランスと失業者にとっては最高の雰囲気と言えるでしょう。また外国人も多いです。ウイルスのニュースはあってもベルリンでは気楽な雰囲気がまだ続いていました。
3月14日の土曜日。もしくはその前の日だったかもしれません。とにかくその朝にジョギングに出た時に、青空が見えました。実はベルリンもいい町だったなという不思議な感慨で一杯になったことを覚えています。それが何となく不吉な前兆のような気もしました。その土曜日に電車に乗ったところ、ドイツに来て初めて、マスクをしているヨーロッパ人を発見しました。もっとも外見的にはイタリア人のようで、険しい表情をしながらコンパートメントに一人座っていました。ここに逃げてきたのだろうかなどと想像してしまいました。
3月15日の日曜日。久しぶりに空港に行ってみたくなり直通バスのTXLに乗り込みました。小走りにバスに近づいていつも通り前のドアから乗車しようとしたところ、何かが書かれたプレートが窓に取り付けてあり、車中からドライバーが私を見ながら後ろを指差していました。そちらの方のドアから中に入って前方を見ると、ドライバーの周囲はテープで封鎖されていました。もちろん感染からの保護のためです。空港に到着すると、数人ではあってもやはりマスクをしたヨーロッパ人がいました。今から思えば、私にとってはこの日がベルリンにおけるコロナ騒動の本格的スタートの日でした。
3月16日の月曜日。午前中に近所の行きつけのカフェに行きました。ここは人気店なのでその時間でも五人から十人ぐらいのお客さんがいるはずなのですが、二、三人しかいませんでした。何よりも店のスタッフが途方に暮れた表情をしています。実際にその翌日から閉まりました。
この週はお店での品揃えの変動が激しかったです。DMというドラッグストアーが近所にありますが、そこではトイレットペーパーが無くなっていました。ところがその同じ日の、そこから約三百メートルの範囲にある同グループの別の店舗では、まだ結構残っていました。あるスーパーでは豚肉が売り切れになっていたので驚いたものの、翌日には逆に大量に残っていました。町全体が急に右往左往し始めました。
3月20日の金曜日。大学での用事を済ませて、午後に再びクーダム通りに行ってみました。ヨーロッパ大陸最大といわれるKADEWEというデパートも閉まり、開いているのはドラッグストアとスーパーマーケットぐらいでした。ここは本来ならば人の多い場所で、無理に例えるならば上野ぐらいの込み具合でしょうか(この比較は自信ありません)。ところが、私の目前にあったものは、丁度早朝六時ぐらいの光景でした。つまり、バスも動いていて車もそこそこ走っていますが、通行人はほとんどいませんでした。
3月21日の土曜日。私の気持ちの上ではこれがとどめになったのですが、在ドイツ日本国大使館発行のメールが届きました。在留邦人のための注意喚起を目的としたもので、ドイツ政府発表の情報の和訳などが出ています。この日のメールはベルリン州政府による追加的措置についての連絡で、イベント・集会の禁止、他人との物理的距離の確保、飲食店等の閉鎖という三つの項目がありました。 博物館はもっと前から禁止でしたが、イベントが原則禁止となりレストランとカフェが無くなるということで、ベルリンの魅力が半減してしまいました。(但し、久しぶりにFacebookを確認すると、数か月後のイベントの告知などが結構出ていました。)
3月22日の日曜日。試しにもう一度そのスタバに行ってみました。開いていました。もっともテークアウト専門でした。その他としては幾つかのパン屋とケバブ屋はやはりテークアウトの形で営業していました。ドイツは日曜日は原則としてお店が休みになるものの、通常ならば飲食関係は開いています。それが軒並み閉店になったのです。そのままベルリン中央駅に行くと、やはり閑散としていました。このときになってようやくマスクの売れ行きが気になりました。駅構内の薬局では売り切れで、別な店でも売り切れでした。とは言え、いまだにマスクをしている人はほとんど見かけません。注意して観察すると、マフラーで鼻と口を隠そうとする人は増えました。
これが私の経験した限りでのベルリンの二週間です。あっという間でした。生活に困ることはまだありませんが、残念ながら寂しくなりました。救いとしては、険悪な雰囲気は感じていません。この部分ではまだ暢気なベルリンが残っています。それにベルリンの自然はもちろん相変わらずです。先週からジョギング中にウサギやリスを見かけるようになりました。
マスク着用によりウイルスの拡散を防ぐ日本に対して、そのオプションを取らないもしくは取れないドイツは、街中の人口を減らすしか手が無いのだろうと推測しています。有効なワクチンが無くそもそもこのウイルスの素性がはっきりしない現時点では、こうするしかないのでしょう。
先日の大使館発行のメールから引用すると、「個人によるスポーツ,屋外での新鮮な空気を吸うための運動」のための外出はまだ認められています。私自身は2メートル以上他人と距離を取りながらジョギングを続けていますが、しっかり情報をチェックして適切な行動を取ることが必須です。場合によっては家でのみ運動することになるかもしれませんが、とにかく体を鍛えて気分転換をして良質の睡眠を確保するというのが現時点でのベストではないかと考えています。