世界時計

2020-10-29

第46回、中国から離れつつあるドイツ、その5

 

目次

1、初めに

29月までの流れ

3、ドイツ版デカップリング政策の前兆

4、対立するEUと中国の板挟みになるメルケル首相

5、メルケル首相と安倍元総理の会談

6ドイツが中国から離れる必然性

 

1、初めに

ドイツが政治経済の面でどの方向に進んでいくかを扱ってきましたが、9月には大きな動きがありました。私の方はと言うと、ヘーゲルの「本質とは無から無への運動である」という言葉の解釈に1月からずっと携わり、それが9月末にやっと形になりました。そこでドイツについての記事をまとめて出そうとしていたら、ベルリンに例のいわゆる「慰安婦」の像が建ち、そちらを先に扱いました。

今回は「中国から離れつつあるドイツ、その5」というタイトルにします。第42回「中国から離れつつあるドイツ、その4」の冒頭では次のように書きました。「メルケル首相から重要な声明が出るようなことは当分ないと思います。つまり、外交や政治の部分では当分動きはないでしょう。」ところが、9月と10月に少しその動きが出始めたのです。本来ならば三回ぐらいに分けるべきところを一度にまとめます。

ここまでは先週ぐらいに書いていたのですが、川口・マーン氏の「ドイツ政財界が『中国の独裁政治』を問題視しない残念な理由」(脚注1)という記事が1023日に出ました。とても興味深い記事でこれについての感想を含めるかどうかを迷っているうちにまた日にちが立ちました。今回はあまりそれを意識せずに書いていきます。

 

29月までの流れ

三つ前の「第43回、ドイツの情勢、その1」のところで4月以来の流れをまとめてありますので、詳しくはそちらをお読みください。少なくとも7月22日以降は、中国と距離を取るときにはマース外相が談話を発表し、メルケル首相はタッチしないという図式が確立しています。自身を中国に対する最後の調整役と位置付けていたのでしょう。

 

3、ドイツ版デカップリング政策の前兆

ブルームバーグの9月2日付の「『脅しはふさわしくない』と独外相-チェコ訪台団威嚇する中国外相に」(脚注2)という記事から引用します。中国の王毅外相は「1日、マース独外相と共にベルリンで50分間に及ぶ記者会見に臨んだ。そこでマース外相はチェコ外相と電話会談したことを明らかにし、欧州に脅しは通じないと強調した」。

この翌日、つまり9月2日には、ロシアの野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏がロシア政府によって毒殺されかけたのではないかという疑惑が浮上しました。この時にはメルケル首相自身が直接声明を出してロシア政府を非難しています。習近平主席への態度との違いが際立ちました。

この92日にはさらにドイツ連邦政府が「インド太平洋ガイドライン」を発表しました。Welt紙から同日付で出た「ドイツの新しい中国プラン」という記事(脚注3)は、上記のマース外相と王毅外相との会談を踏まえながらこのガイドラインを説明しています。それによると、このガイドラインは「ドイツの中国政策の方向転換を示している。今後、ドイツは日本、インド、インドネシアなどのアジア諸国とより緊密に連携したいと考えている。そして中国。しかし、[ドイツにとっての]唯一の国としてではない。このことは中国がドイツの最重要通商パートナーであるだけに注目に値する。ベルリンは関係を多様化し、自身の存在をより広く示し、そして更なる自由貿易協定を締結することを意図している。そしてこれは、もはや中国には依存しないためでもある。」

第一に言えることは、中国に対して強く出るときにはマース外相が担当し、メルケル首相は出てこないという傾向が継続していたことです。確かにドイツと中国の外相同士の会談ではありましたが、とにかくメルケル首相が直接中国を非難することはありませんでした。

日本政府は安倍前総理の任期中にデカップリング政策を打ち出しました(脚注4)。ドイツは今回の方針転換により、自国の企業に対して中国からの脱出を奨励するところまでは進んでいないものの、政府の側でその準備を始めたという見方ができるでしょう。92日は大きな転機となりました。

 

4、対立するEUと中国の板挟みになるメルケル首相

既に「第42回、中国から離れつつあるドイツ、その4」で取り上げたように、本来は9月にドイツのライプチヒでEU中国サミットが開催される予定でした。この会議でのEUと中国の投資協定の妥結がメルケル首相の宿願ですらあったのに、コロナ騒動のために延期になりました。

そして9月14日にビデオ会議の形でEU中国首脳会談がありました。ドイツの公共放送局ARDの午後8時からのターゲスシャウというニュースについては「第37回、中国から離れつつあるドイツ」以降で何回か取り上げましたが、今回は9月14日の放送分に関するドイツ語のテキスト(脚注5)を和訳しながら取り上げます。表題は、「投資協定に関する会議、EUは中国からの譲歩を要求する」です。

この記事の冒頭には全体の総括が太字で記されてあり、これがまさに我が意を得たりでした。「人権、気候保護、『安全保障法』―EUは中国に政治的方針転換を求める。その後でならば計画された投資協定に関する交渉を終えることができただろう。」つまり、経済よりもさらに根本的な安全保障レベルの問題が重視されたということです。

この会議では「EUの中華人民共和国に対する貿易及び経済関係が重要項目となっていた。新疆ウイグル自治区の人権の状態と香港の状況についても議論された。すべての問題について双方が同意したわけではなかった。」ここまでの部分についてはほとんど合意事項が無かったことが予想されます。

続いて表題にもある投資協定についてです。「しかし、EUと中国は、予定されていた投資協定に関する交渉を加速したいという点では同意した。2014年から進行中の交渉を年末までに締結することが目標である。欧州委員会委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエンは、その実現のためには北京は例えばEU企業の市場アクセスというテーマに取り組むようにと要請し、またしかし交渉が進展しているということも確認した。」何とも歯切れの悪い表現ですが、要するに中国はEUからの要求に応えていないが、EUは中国を見放してはいないということです。

同氏によれば、三つの根本的な論点について中国から譲歩を得られたそうです。「一つ目は中国政府の自国企業への影響力が弱まったこと。さらに中国が要求していた技術移転の問題に関して、そして中国国有企業への補助金の透明性がより高まったこと。これは重要な前進だ。」そしてビデオ会議の後に、投資協定はEUにとって価値あるものであることを、中国はEUに納得させる必要があると語ったそうです。

この記事の中にはメルケル首相自身の感想はありません。モルゲンポスト紙はこの件についてのDPAの配信記事を掲載していますがそこにもありません(脚注6)。「第42回、中国から離れつつあるドイツ、その4」ではニュース週刊誌のシュピーゲルを取り上げましたが、メルケル氏はこのサミットが「行われることを是が非でも望んでいる」とありました。その結果がこうだったのですから、さぞかし頭を抱えたのではないかと想像します。この会議も大きなポイントでした。

 

5、メルケル首相と安倍前総理の会談

産経新聞から106日付で「〈独自〉安倍前首相が独メルケル首相と電話会談」(脚注7)という記事が出ました。「電話会談はメルケル氏の求めに応じたもの」だそうです。「安倍晋三前首相は6日午後、ドイツのメルケル首相と電話会談した。日本が提唱する『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた連携や、新型コロナウイルス対策などで意見を交わしたものとみられる。」これが本当ならば、メルケル首相の方向転換と言えるでしょう。中国の嫌がる事柄についてメルケル首相が積極的に話題にしたことになり、珍しくメルケル氏自身が中国を批判したような格好になるからです。但し、同じ産経新聞からその翌日に出た記事(脚注8)によると、「まずは体調に万全を期していただきたい」とメルケル氏が伝えたというようなごく当たり前の会話に留まったのかもしれませんが。いずれにせよ産経新聞からは6日の記事についての訂正は出ていない模様です。この記事の重要度は非常に高いはずなのに、ネット上でほとんど取り上げられていないことが実に不思議です。

 

6、ドイツが中国から離れる必然性

やはり事態の進展が速いです。メルケル首相の習近平主席との個人的なつながりを除くとドイツの中国離れは加速しています。そしてその最後の絆もかなり際どくなってきました。

折しも1027日に「中国、2035年全て環境車に 通常のガソリン車は全廃」(脚注9)という記事が日経新聞から出ました。気候保護の観点では頑張るようです。さりとて人権問題や安全保障法の点で習主席が折れるとは考えられません。そしてこれらの問題での改善無しに、経済的利益のみでEUが動く時期は過ぎたようです。そもそも現状では投資協定の価値すら疑われています。ドイツがEUの一員である限りこの趨勢に逆らうことは不可能でしょう。

「第43回、ドイツの情勢、その1」の中で、なぜドイツが中国から離れられないのかについて触れました。ヨーロッパのドイツにとって極東アジアの情勢は基本的に関心の外にあり、そしてNATOEUの一員である限り安全保障は万全です。コロナの件を除けばドイツは従って平時であり、中国とのビジネスに没頭することは国益にかないます。ところが今回のビデオ会議により、EUが中国ビジネスに格段の価値を見出さないということがはっきりしてしまいました。それと同時に国土や国民を守るという安全保障に関する側面と人権問題などの価値観の側面とに比重が移り、中国がその点でEUと対立することも明らかになりました。ドイツがEUの枠内にある限り、これまでとは反対に中国と離れる条件が整いつつあります。

マース外相によって公表された「インド太平洋ガイドライン」と日本による「自由で開かれたインド太平洋」というコンセプトがメルケル首相と安倍前総理との会談の中でつながったならば、経済と安全保障の両面で中国を包囲する体制になるかもしれません。

これから中国が逆転するのは難しいでしょう。

 

脚注1

ttps://gendai.ismedia.jp/articles/-/76661

脚注2

ttps://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-09-02/QFZJV6T0AFBB01

脚注3

ttps://www.welt.de/politik/ausland/article214907604/Indo-Pazifik-Leitlinien-Deutschlands-neuer-China-Plan.html

脚注4

ttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20200407/k10012371511000.html

脚注5

ttps://www.tagesschau.de/ausland/videokonferenz-eu-china-101.html

脚注6

ttps://www.morgenpost.de/politik/ausland/article230411402/Merkel-und-EU-Spitzen-beraten-mit-Xi.html

脚注7

ttps://www.sankei.com/politics/news/201006/plt2010060029-n1.html

脚注8

ttps://www.sankei.com/politics/news/201007/plt2010070029-n1.html

脚注9

ttps://www.sankei.com/politics/news/201007/plt2010070029-n1.html

 

 


2020-10-14

第45回、ベルリンのいわゆる「慰安婦」問題について

目次

1、初めに                              

2、この問題に関する日本側の動き

3、残っている問題点

4、そして慰安婦像は残った

5、まとめ

 

1、初めに

ベルリンに「平和の少女像」いわゆる「慰安婦」の像が建ちました。私はジャーナリストでもないし、激しい論争を呼び起こすこのような問題とは関わりたくないというタイプなのですが、よりによって私が普段歩くところの近くに建ちました。これも何かの縁かと思い、この件について考えてみることにしました。

私の立場は是々非々です。そして「中立」であることを目標にしています。右寄りの人の中にも左寄りの人の中にも韓国人の中にも友人や知人はいます。私自身は日本人として日本の国益を追求するとしても、韓国人が韓国の国益を追求するのは正しいと考えています。もっとも国益を追及するが故に自国に否定的な見解を出すということは当然あるでしょうが。とにかく、このシステムの場合は各国の国益が自国民によって守られることが平等に保証されます。その意味で「中立」であるということです。是々非々とこの意味での中立性を一言でまとめるならば、客観的な基準に従うということです。

戦時中に女性に降りかかった様々な不幸については、二度とそういうことが起きないようにと願うばかりです。そもそも第二次大戦後のベルリンにたくさんの事例がありました。この点については国籍は関係ないです。

 

2、この問題に関する日本側の動き

 自民党の青山繁晴参議院議員の動画でベルリンの「慰安婦」問題を取り上げています。これを書いている今はドイツ時間で1014日の深夜ですが、この段階では3本出ています(脚注1)。青山議員と外務省の担当者とのやり取りや自民党の外交部会での自民党議員と外務官僚との質疑応答などが紹介されています。

 さて、それではその3本の動画から日本側の取った行動について私が理解したことをまとめてみます。

一、日本側は実は約一年前から韓国側の動きを察知し、人を雇って探索していた。

二、しかし結局像の設置の前日である927日の韓国メディア報道が出るまで、日本側はその事実を把握できなかった。

三、「927日以降、事実関係・経緯を確認しつつ、関係者に対して、日本の立場を説明の上、像の撤去に向けた働きかけを実施。」(この部分は動画で紹介された資料を私がそこから読み取ってここにコピーしています。)

四、ドイツ時間の101日、日本時間の102日に行われた日独外相の電話会談の中で、茂木外相がマース外相に対して像の撤去を要請した。「しかし、ドイツ側から、マース外務大臣がどう答えたかは公表しないでくれ」と言われた。(そして今現在でも、日本の外務省のホームページではこの件についての報告はありません。)

五、108日にベルリンのミッテ区からプレスリリースが出た。「設置許可の撤回を7日付で通知した。設置団体は1014日までに像を撤去しなければならない。」(これも動画内の資料の私による書き写しです。)

 

3、残っている問題点

 多くの日本人がこれで問題は完全解決したとお思いでしょう。しかし、真の問題はここから始まると言うべきです。以下では、日本側の対応の問題点を指摘しながら日独関係の問題につなげていきます。

 一つ目の論点は、日本側が完全に後手に回っているということです。相手が火をつけていないときにこちらから騒ぐ必要はないというのが、日本側の基本的な姿勢のようです。今回も問題が顕在化するまでは水面下での活動に徹するのみだったようです。この結果として何が起こったかを見ていきましょう。

 2019430日付のドイツ公共放送局ZDFのサイトに掲載された、ドイツ語のテキストを以下に訳出します(脚注2)。「第二次世界大戦中、昭和天皇の下で日本はファシスト国家であるドイツとイタリア、いわゆる枢軸国と同盟を結んだ。日本は第二次世界大戦中に深刻な人権侵害を犯した。20万人の主として韓国人の婦女子が日本の前線でいわゆる慰安婦として拷問され、性行為を余儀なくされた。 中国、韓国、東南アジアの犠牲者の多くは、天皇が裁判にかけられるべきだったと今でも信じている。」

 まさに中韓の主張がそのまま紹介されていて、日本側の見解は完全に黙殺されています。もちろんドイツメディアの報道の自由を侵害するわけには行きません。そして出火の事実が無ければ動かないという姿勢を堅持するならば、一年半に渡ってこの文言が掲載されて来たことは不思議でも何でもありません。日本側が手を打たないならば、このままドイツの常識として定着するでしょう。日本のNHKについては国内でも批判的な意見が出ていますが、ドイツ人がZDFを批判するのはあまり見たことがありません。額面通りお受け取りください。

 二つ目の論点は、今回の対処方法です。火がついて煙が出てから活動し、外務大臣クラスの会談がきっかけとなって撤去が決まりました。政治的レベルでは日本側の勝利ですが、ある意味では、まさにこれが逆効果なのです。ベルリン州は果たして日本側の主張に対して聞く耳を持ったのでしょうか。はっきり言えば、日本政府の圧力と連邦レベルのマース外務大臣からの要請に、ベルリン州の中にあるミッテ区という小さい行政機関が従ったというのが実情でしょう。

 ベルリン州のミッテ区のプレスリリースから該当箇所を訳してみます(脚注3)。「平和の像」は「武力紛争における女性に対する性的暴力への声明として評価されました。しかし、それに相応しい設計になってなく、『平和像』は第二次世界大戦中の日本軍の行動のみを扱っています。これは、国や地方レベルでの日本、そしてベルリンでも苛立ちを引き起こしました。」つまり、日本軍による女性への性的暴力が存在したかどうかについては、ベルリン州がいまだに存在したと認識しているように読めるのです。

最後は、日本のメディアも韓国を支持している点です。929日付の共同新聞の配信による毎日新聞の英語版の記事です(脚注4)。「日本の戦時中の軍の売春宿で働くことを強制された<forced to work>韓国の女性を象徴する少女像が月曜日にベルリンで発表された。」「韓国と日本は、日本の1910-1945年の朝鮮半島の植民地支配< colonial rule>に端を発する慰安婦問題について長い間対立してきた。」「募集された」とか「集められた」ではなく「強制された」、「併合」ではなく「植民地」ですから、これを読んだ英語の読めるドイツ人がどう受け取るかは推して知るべしです。ちなみに、前に視聴したドイツのドキュメンタリーでもやはり植民地という表現でしたし、これはもうドイツでは常識と言えるでしょう。

外交のトップによる会談で成果が出たということは、逆に言うと、下からの積み上げの成果が今一つであるということです。さらに一般民間人という草の根レベルでは判官びいきの感覚から韓国側に風が吹きます。この状況でドイツ人に対して日本の主張を頭に入れてもらうのは難しいです。

 

4そして慰安婦像は残った

 たまたま深夜まで起きていたら、すごいニュースが出ました。本日14日付の共同新聞の配信による産経新聞の記事で、「慰安婦像『当面認める』 許可取り消しの独自治体」(脚注5)という表題です。「今後、日韓双方が折り合える妥協案を探りたいとしている」のだそうです。

しかし、ここまでこの文を読んでいただいた方にはお判りいただけるでしょう。これは韓国の団体のこの数日間の働きかけの成果ではありません。ドイツでの常識に沿った結果なのです。


5、まとめ

私が願うのは、正しい事実確認と両論併記です。日本が勝てばいいという発想ではもう限界です。日本は政治的に勝ったが正しいのは韓国(そして中国)だとドイツは本気で考えています。ここでもう一度日本が政治的に圧力をかければなおさら状況は悪化します。

長くなるので今回はここで終わりにします。

最後になりますが、像のところにある碑文の写真を掲載しておきます。あまりにもツルツルなため、日中に取ると空や近くの木が鏡のように写ってしまいます。そのため夜にもう一度行って撮り直しました(脚注6)。青山議員の動画でも指摘がありましたが、今回は「20万人」という表現ではないのです。写真を見ていただければお分かりいただけるように、countlessつまり無数という表現です。韓国側の主張についての事実確認の一助になれば幸いです。

(追記:この記事はドイツ時間の13日の深夜に書き上げ、一度取り下げ、14日の深夜に再びアップロードしようとしたところ、解体取り消し期限無効のニュースを見つけたのでそれを加えました。そのためつぎはぎになっています。

ベルリン・モルゲンポストの今日つまり14日の記事から引用します(脚注7)。「現在、韓国協会が行政裁判所に暫定的法的保護の申請を行ったため、期限が無効になった。」そして末尾にはこうあります。「歴史家の推定によると、第二次世界大戦中、特に韓国と中国から最大20万人の女性が、特に日本帝国軍により前線の売春宿で売春を強要された。」多くの日本人は韓国からの圧迫ということで理解しているでしょうが、今回は「ドイツ人にとっての常識」が中韓にとっての常識と一致し、そして日本側の主張はほとんど取り上げられないという背景があるのです。)



碑文の上側、昼



碑文の下側、昼



碑文の上側、夜



碑文の下側、夜



脚注1

ttps://www.youtube.com/channel/UCueFlCvu9XJI3EbK5s5ocWA

 この中の第38回、第40回、第41回の放送です。一年前からの日本の動きやマース外相の件は第38回の中にあります。第41回に自民党の部会で配布された資料が出ています。各放送日時と収録の日時にはずれがあるそうです。

脚注2

ttps://www.zdf.de/nachrichten/heute/faq-was-man-ueber-den-tenno-wissen-muss-100.html

脚注3

ttps://www.berlin.de/ba-mitte/aktuelles/pressemitteilungen/2020/pressemitteilung.1001656.php

脚注4

ttps://mainichi.jp/english/articles/20200929/p2g/00m/0in/028000c

脚注5

ttps://www.sankei.com/world/news/201014/wor2010140002-n1.html

脚注6

碑文はドイツ語、英語、韓国語、ドイツ語、英語という順番に上から並んでいました。昼の上下と夜の上下(英語中心)の4枚を掲載します。もし韓国の団体から取り下げるようにという指示があればすぐに削除します。

脚注7

ttps://www.morgenpost.de/bezirke/mitte/article230658630/Trostfrauen-Statue-soll-weg-Mitte-beugt-sich-Tokios-Druck.html

2020-09-08

第44回、コロナの夏

  8月に一つぐらいは出そうとしていたのですが間に合いませんでした。簡単に書けるのを出しておきます。今回からは小見出しを付けます。

1、最近のベルリンについて

2、自分の側について

 

1、最近のベルリンについて

一言でまとめると、すっかりコロナ慣れしています。

EU圏内のロックダウンが7月中に解除されると発表されたときに個人的に予想していたことですが、やはり感染者数は増えました。それでもフランスなどに比べればまだいい方ということもあるのでしょう、私の見る限りのベルリンはすっかり緩んでいます。

ソーシャルディスタンスは相変わらず1.5m以上という基準ですが、実際には50cmぐらいの感覚になっています。例えばベルリンのスタバではベンチタイプの席のテーブル数を減らして1.5mにしていますが、そうすると座席数は全体として少なくなります。そしてそのテーブルの無いベンチに座ろうとしてくる人が結構多いのです。2週間前にそうやって私の横に割り込んできた人に注意したところ、「あなたが席を離せばいい」と言ってきました。でもその人の反対側にはその余裕がないのです。そこで、「そうしてもいいけれど、結局スタッフがあなたのところにやってくるでしょう」と言ったときに、ようやくあきらめて立ち去りました。(もちろんこの会話はドイツ語です。)

仕事の関係でドイツ人サイドとの打ち合わせをしたいのですが、ただ今夏のバカンス中で連絡が取れません。昨年までならば当たり前なのですが、今年も旅行に行っているのかと少し驚きました。

しかし明るい雰囲気とは言えません。個人的には、私のよく通うショッピングモールがどんどん縮小しているのが気がかりでなりません。2階へのエスカレーターが3基あったのに2基つぶして1基になり、そして店舗も減っています。昨年の夏ぐらいにオープンしたばかりなのに1年待たずにパンデミック到来というのは見ていて辛いです。

総じて、本物の活気は無いが恐怖は消えているという印象です。ドイツ政府は改めてソーシャルディスタンスの徹底を呼び掛けていますが、そもそも今ベルリンには他のEU諸国からの旅行者も滞在中であり、気を引き締めるという雰囲気ではないです。

 

2、自分の側について

2月ぐらいに実はかなり太り、それからジョギングなどを開始し、結局その最大成長期から8kgぐらい落とせました。今でも週に2回は4kmぐらい走っています。スマートウォッチは私には実に効果がありました。時計を見る度にその日のカロリー消費や歩数が目に入るのは実にいいです。いわゆる「可視化」のツールとしては最適です。

これを何とか他のことに応用できないかと考えましたが、とりあえずは付属ソフトのポモドーロタイマーを使うところで止まっています。これは知らない方が多いかもしれませんが、例えば25分経過時と5分経過時にアラームが鳴り、その都度ごとに作業と休憩を繰り返すというものです。「可視化」というよりもメリハリの「意識化」と言うべきでしょう。

ビジネスの話に移ると、旅行業という面ではやはり厳しいですね。私については最近はリモート通訳の案件が来始めています。Airbnbさんによるオンラインビジネスの記事を見つけましたが、旅行業の立場で「直接現地に行かなくてもオーケー」と打ち出すのは実に際どいところです。この業界に特に興味のない人であれば、直接体験とオンライン体験とを組み合わせればいいだけだという至極もっともな考えにすんなりと落ち着くでしょう。しかし、そもそも旅行業というのは直接体験の素晴らしさをひたすら強調することによって成り立ってきたようなものです。ビジネスの根本の部分での再検討が問われています。こうなると新興企業の方が動きが早いでしょう。もっとも、一度方針が決まると組織の力で一気に巻き返すというのが日本の大手企業一般の特徴とも言えるでしょう。多分これから1年ぐらいの間に転換点が来るだろうと予想しています。フリーランスというのはこうして常に数年先を読まないと生きていけない稼業なのであります。

後は、第43回のときにも触れた「無から無への運動」について考え続けるという毎日です。5月ぐらいからは新しい日常にも慣れ始め、こういう非生産的な仕事にはかえって都合がいいです。とは言え予想以上に時間がかかり、ブログが途切れがちになる要因にもなっています。

 

町から本物の恐怖感と本物の活気のそれぞれが消えて、それが日常生活にも反映しているといった感じでしょうか。活気が有っても無くても無は有るので、取りあえずはこれでいいのです。

2020-07-24

第43回、ドイツの情勢、その1

 ヘーゲルの『論理学』にある、「本質に固有な反省的運動とは無から無への運動である」という命題の解釈がまとまらず、それ以外のことに中々手がつきません(ヘーゲルの言葉というのはどれもこれも大体こんな感じです)。そのため大分間隔が空いてしまいましたが、この辺で記事を出します。でも722日と23日はヨーロッパにとっては一つの転換点になったと思うので、これはこれでいいタイミングになりました。二回分のボリュームになっています。

「中国から離れつつあるドイツ」と「欧米諸国内でのドイツの立ち位置」を統合するものとして、「ドイツの情勢」というタイトルに変更しました。そもそも現状では「中国から離れきれないメルケル首相」とするべきかもしれません。

 

「第37回、中国から離れつつあるドイツ」で書いたように、ドイツと日本は安全保障の面ではアメリカの同盟国であり、経済的には中国との関係を非常に重視しています。

4月に動きがありました。日本は「生産拠点の国内回帰を後押し」する緊急経済対策を出し、また安倍総理自身が現状を第三次世界大戦と見なしているという報道がありました。他方ドイツについては、「第39回、中国から離れつつあるドイツ、その2」で取り上げたように、メルケル首相は「中国が新型ウイルスの発生源に関する情報をもっと開示していたなら、世界中のすべての人々がそこから学ぶ上でより良い結果になっていたと思う」という談話を発表しました。

問題はここからです。あれから7月の今に至る過程で、日本とドイツの差がはっきりしてきました。日本については、習近平主席の国賓としての受け入れをストップさせる方向が出たのに対し、アメリカへの悪感情というのは特にないでしょう。したがって安全保障上の方針と政治経済や国民感情的な部分とが一致してきています。

ドイツの場合は大分違います。メルケル首相というかドイツ政府は、NATOEUの枠組みを壊さないという前提の上で、アメリカの言いなりにはならないという方針を堅持しています。そして中国との関係についてはソフトランディングを目指しています。「第40回、中国から離れつつあるドイツ、その3」で触れたように、ドイツ人の中の反米感情が高まっているという報道もあります。

6月後半から今に至るまで、ドイツとアメリカの関係は蜜月とは言い難いものでした。ドイツ駐留米軍削減の件があり、そして6月末には電話会談において怒ったトランプ大統領がメルケル首相に対して「バカ」と言ったという事件もありました。とうとう言っちゃったし、とうとう言わせちゃったわけです。ドイツのntvというメディアによると(脚注1)、ベルリンのドイツ政府は詳しい内容を伏せているそうです。数百年前ならばこれで十分宣戦布告になるのでしょうが、それはないでしょう。両者ともNATOの枠組みを壊す気は毛頭ないことがかえって明らかになりました。それと同時に、メルケル首相が安全保障の観点からトランプ大統領に膝を屈するということも当分は無さそうです。

それでは中国に対してはどうかというと、これが正反対のようです。これまでの流れからさもありなんというところですが、次のeconomist716日付の記事は実に参考になりました。表題を訳すならば、「アンゲラ・メルケルのソフト中国スタンスは本国で試される」(脚注2)ぐらいになるでしょうか。例の香港国家安全法に関連して、メルケル首相の所属するキリスト教民主同盟(CDU)及びドイツ外務省が中国批判について細心の注意を払い、そのことが連立パートナーの社会民主党(SPD)の外交スポークスマンから「時代遅れ」と批判されているとあります。

このような情勢において、フランスに動きがありました。先日の水曜日つまり22日付の日本版のブルームバーグの「中国とフランス、航空機販売と5Gでの協力強化を表明」(脚注3)という記事によると、21日の両国のビデオ会議においてそのように決まったということです。20日付の日本語版ウォールストリートジャーナルの「中国、ノキアなど報復対象に EUがファーウェイ禁止なら」(脚注4)という記事にある中国からの報復措置を恐れたのかもしれません。

この段階で4月以前の状態に戻りました。ドイツとフランスは米中の間で中立のスタンスになったと理解しました。この時点では、とうとうフランスもメルケル氏につられてしまったかと、ため息をついていました。

 

ところが、ロイターの日本語版で同じく22日に、「仏、5Gからファーウェイ事実上排除 免許更新せず=関係筋」(脚注5)という記事が出ました。「関係筋は『フランスも英国に類似した対応を取る。政府の伝達の仕方が異なるだけだ』と述べた。」さらに同日のフランスのAFPの日本語版からは、「仏、ウイグル問題で監視団派遣を要求 中国側は『デマ』と一蹴」(脚注6)という報道が出ました。この記事は次のように締めくくられています。「欧米と中国間の緊張は、中国による香港への国家安全維持法導入や、 中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ、Huawei)製品を排除する欧米側の動きなど、複数の問題をめぐって急激に高まっている。」あたかもブルームバーグの記事内容に「待った」をかけるがごとく、矢継ぎ早に報道が続いたのです。これで再び4月以降の状態に戻りました。

時系列的に見て、このフランスの動きは米英の動きに連動しているというのが普通の推理でしょう。19日にはBBCの番組でウイグル問題に関連して在英中国大使がつるし上げのような目にあい(脚注7)、22日には産経新聞の「米『中国に世界で抵抗』 香港対応など英と協議」(脚注8)という報道があり、そして木曜日つまり23日にかけて、とうとう米中で大使館封鎖合戦が始まりました。フランスの態度の急変の背景には、イギリスのみならずやはりアメリカの動きがあったことは間違いないでしょう。

さて、ドイツはというと、これには苦笑しか出てこないです。22日の午後8時からのターゲスシャウというドイツでの代表的なニュース番組(脚注9)では、四番目か五番目ぐらいに、トランプ氏がマスク着用を義務付けるようになったことについて取り上げていました。大統領選挙での困難が予想されるので前言を撤回したのではないかなどと割合長めに伝えていました。それに続く在ヒューストンの中国大使館閉鎖命令についての報道は簡潔でした。この形だと、選挙の前評判の段階で劣勢に立つトランプ大統領が焦って色々変なことをやっているというような印象を視聴者は持つでしょう。

あとは、ドイツのマース外相の談話が出ました。ウェルト紙の22日の「マースが中国の香港国家安全法への対応を発表」(脚注10)という記事によると、ドイツにはこの問題に関して幾つかの提案があり、EU外相間での議論のためにフランスとともにこれらをすでに提出していたそうです。今週の前半にイギリスと中国の間で香港関連での批判の応酬があり、そしてマース外相によると、現在ドイツはイギリスと同様のステップを計画しているそうです。これは深読みかもしれませんが、後出しじゃんけんではないということを強調したいのかなと受け取りました。いずれにせよメルケル首相による談話ではありません。

 

こうしてみると、何しろドイツとフランスが揃ってイギリスの外交政策を踏襲すると表明しているのですから、EUを脱退したイギリスが事実上のEUのリーダーになっていることがわかります。どうしてこういう情けない話になるかと言えば、やはりメルケル首相がトランプ大統領とは徹底的に対決し、それと同時に習近平主席とはあまり批判をしないようにと気を配りながらの対話を継続しようとしているからであり、そしてこのメルケル氏にマクロン大統領が引きずられているからではないかと推測しています。

もし現状が平時であれば、中国とともに経済的発展を目指し、経済面でのライバルとしてのアメリカに対抗するというのは悪くないかもしれません。昨年業務の関係でたまたま参加したパーティで出会ったドイツ南部選出の国会議員は、ほろ酔い加減で私に、「ドイツは中国とともに頑張る、日本も一緒にやっていこう」というリップサービスをしてくれました。どうやらメルケル氏も未だにこの議員と同じ考え方をしているのかもしれません。

ドイツが脱退を表明しない限りはドイツはNATOEUの一員であり続けます。そうすれば安全保障は万全です。まして遠く離れたアジアの動向に関心を持つ必要はありません。このためメルケル氏の認識としては、コロナを度外視すればドイツは平時であり、そしてその延長線上にある世界全体も同様に平時として見えているのでしょう。コロナに気を取られてその他が見えなくなっているという面はあるのかもしれません。何はともあれ、メルケル氏が経済問題に没頭して反米親中のような方針を取っている理由はここにあると推察します。

事実がこの通りならば、アメリカと中国が安全保障レベルで対立し始めるとき、この政策が空中分解するのは理の当然なのです。これに対してフランスの方はより早く危険を察知したようです。どこかのメディアがメルケル氏に、「もし今アメリカと中国がミサイルを撃ち合うなら、ドイツはどちらに撃ちますか」と質問してみれば、少しは我に返るのかなと想像しています。「仮定の話には答えられない」という大失言はさすがにしないでしょう。もっとも、NATOの一員としての正しい答えを述べるなら、それこそ例の香港国家安全法によって在中国のドイツ人に危険が及ぶのかもしれませんが。

メルケル氏にとっては中国の工場の生産力と人民の購買力は未だに魅力があるのです。ところが、先に引用したeconomistの記事には、中国に拠点を持つドイツの中堅企業は撤退するべきだという意見が、昨年あたりからドイツ人の中にも多くなってきているという指摘があるのです。また、そもそも中国での現在のコロナの感染状況の実態はもはや誰にもわからぬような有様で、半年前ぐらいの予想通りイナゴは中国に到着し、そして三峡ダムが絶体絶命となり、世界的金融市場としての香港の価値ががっくり落ちています。これらとは別に、アメリカを筆頭に世界中からコロナ関連の賠償請求が出るでしょう。中国を好きか嫌いかを抜きにして、どう見ても中国に期待するのは無理があると思うのですが、メルケル首相にはそれでも明るい未来が見えているようです。直接的な批判を避けながら中国と対話をすれば、言葉は悪いですがいわゆるハッタリがさく裂しているのだろうという悪い予感しか出てきません。

ここで思い出されるのは難民問題です。あの時はキリスト教民主同盟の中からも、難民を受け入れるのはいいが無制限の受け入れはまずいというメルケル首相への批判が出ていました。それでもメルケル氏は独走してしまい、ヨーロッパレベルで滅茶苦茶になりました。今回もどうも似たような展開になりそうです。難民受け入れ問題と中国政策はメルケル首相のレガシーに関わる点で共通していると考えていくと、やはり嫌な予感がします。

この調子で事態が進展すると、ダメージが大きいのはやはりドイツ経済の根幹をなす中堅企業です。安倍政権の出したようなデカップリング政策を一つでもやればある程度のアナウンス効果がありそうですが、現状での在中国ドイツ企業は中国に居続けようという判断に落ち着き、また新たな中国進出計画が続くでしょう。(中国も最大の支持者のメルケル首相を苦境に落とすような戦狼外交など止めてしまえばいいと思うのですが、そうもいかないのでしょうか。)

臆面もなく方針を変えてマスクをするようになったトランプ大統領のように、メルケル首相が対中国政策の面で方針転換をできれば、ドイツ経済の傷は大きくならずに済むかもしれません。またドイツのEU内でのリーダーシップも維持されるでしょう。そうでないなら、どうなるかはまったく予想もできなくなりました。

 

脚注1

ttps://www.n-tv.de/politik/Trump-beleidigte-Merkel-angeblich-bei-Anruf-article21882131.html

脚注2

ttps://www.economist.com/europe/2020/07/16/angela-merkels-soft-china-stance-is-challenged-at-home

脚注3

ttps://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-07-22/QDUDPYT0G1KW01

脚注4

ttps://jp.wsj.com/articles/SB11537187355398293437904586518603902071990

脚注5

ttps://jp.reuters.com/article/france-huawei-5g-security-idJPKCN24N2LG?feedType=RSS&feedName=special20

脚注6

ttps://www.afpbb.com/articles/-/3295233?cx_part=latest

脚注7

ttps://www.bbc.com/japanese/video-53465253

脚注8

ttps://www.sankei.com/world/news/200722/wor2007220002-n1.html

脚注9:ドイツ語の音声が出ます。

ttps://www.tagesschau.de/multimedia/sendung/ts-38207.html

脚注10:ドイツ語の音声が出ます。

ttps://www.welt.de/politik/ausland/article212070463/Maas-kuendigt-Reaktion-auf-Chinas-Sicherheitsgesetz-fuer-Hongkong-an.html

 

2020-06-22

第42回、中国から離れつつあるドイツ、その4

一つ前の第41回の冒頭に、当分は「中国から離れつつあるドイツ」という表題では書かないだろうと予告していたのですが、考えが変わりました。メルケル首相から重要な声明が出るようなことは当分ないと思います。つまり、外交や政治の部分では当分動きはないでしょう。しかし、経済の面での動きはありそうです。中国を切り離すという意味でのデカップリングがあるかどうかはチェックしていくことにしました。

ドイツにライプチヒという町があります。ゲーテのいた町として観光的にも有名ですが、ここで9月にEU中国サミットという会議が開かれる予定でした。ところがコロナウイルスのために延期となりました。この件に関する記事については、EURACTIVEという独立系のEU政策専門サイトの記事が発端になっているようなので、これを見ていきます。原文は英語です。「コロナウイルスのためドイツでの中国EUサミットが延期」という64日付の記事(脚注1)です。
この件についてはドイツ政府が63日に発表したとあります。メルケル首相が中国の習近平主席とチャールズ・ミシェルEU大統領にそれぞれ電話をしたそうです。「パンデミックを考慮すると予定の日時での会議の開催は不可能だが、スケジュールを再調整すべきであることに彼らは同意した」というドイツの報道官の発言が引用されています。「詳細についてすぐに同意が得られるだろう」とのことです。
この記事は全部で七つの段落から構成されていますが、六段落にはドイツの立場が説明されています。「メルケル首相は、71日から6か月間にわたりドイツがEU議長国を務めることを利用して、中国とのブロックの関係を強化することを望んでいた。 しかし、コロナウイルスとその社会的および経済的影響、さらに環境問題との戦いが今や努力の焦点になるとメルケル氏は言った。」
最後の七段落にはEUの立場が解説されています。「EUはサミットを利用して、ヨーロッパ企業に同等の待遇を与え、中国で操業する外国企業にノウハウの共有を強制することを止めるという昨年四月の中国の約束を守るように、中国に求めるつもりだった。」
この昨年四月の中国の約束というのはEUと中国との投資協定のことで、まさにその頃に出た日経新聞の「投資協定20年までに妥結を、EU・中国首脳会議が合意」という次の記事(脚注2)に説明がありました。「EUには中国の通商政策への不満が強い。事前協議では公平な通商や投資環境の整備を主張。中国は前向きな表現に難色を示し、進展がなければ声明を出すべきではないとの声が欧州各国から上がっていた。結局、声明には投資協定の妥結時期や『産業補助金の国際ルールの強化に向けて議論を深める』と明記された。トゥスク氏は記者会見で『補助金に関して中国と合意できた』と強調。李氏も『中国は外国企業向けにビジネス環境を改善する用意がある』と語った。」
したがってメルケル首相の立場というのは、今回のサミットで投資協定を締結し、そうすることによって「中国とのブロックの関係を強化することを望んでいた」ということになります。
このEU中国サミットの背景についてはドイツのニュース週刊誌のシュピーゲルがすでに530日の記事で取り上げていました。以下ではこの記事の英語版(脚注3)から重要な箇所を簡単に拾っていきます。メルケル氏はこのサミットが「行われることを是が非でも望んでいる。」「9月の会議は米国と中国との競争関係におけるヨーロッパとドイツの役割を定義することになるが、もちろん中国側に立つのでは全くないとしても、それは北京との集中的な対話の中での話であって、ドイツにとって伝統的なアメリカ同盟国からはかなり離れている。」「ベルリンはまた、中国の孤立化を図るトランプのファンではない。アメリカ大統領は最近、中国とのすべての関係を遮断するという脅迫さえしている。それでいてドイツは『デカップリング』の政策に参加する準備ができていない。」こういう背景のもとでメルケル氏は、EU議長国の立場からアメリカと相対的に距離を取りつつ中国との関係を策定しようと試み、そしてその肝心の会議が延期になったということです。
この件については615日にAFP通信から配信された「マースは可能であれば年末までにEU中国サミットを取り戻すことを望んでいる」という記事(脚注4)がその後の推移について伝えています。ドイツのマース連邦外務大臣は、「北京と話し合うべきことがたくさんあるため」、年末までにこのサミットを開催したいという意向を示しました。記事の最後の部分を引用します。「EUは中国に対し、『公正な投資及び貿易条件、香港の立場と状況に関する部分を含む国際条約と義務の遵守、そしてもちろんコロナウイルスとの戦いにおける透明性を』期待していると彼は述べた。」そして、「これは、『ヨーロッパとアメリカが目的を共有する場合にのみ』達成できる」という発言もあったそうです。

やはり経済面でのドイツと中国の結びつきは深いです。安倍総理はいち早く中国から脱出を試みる企業へのサポートを表明しましたが(「第37回、中国から離れつつあるドイツ」を参照)、そういう兆候は今のところドイツには微塵もありません。また、このサミット関連の記事にはパンデミックに関する中国批判や賠償金の話なども全く出ていません。
一番重要な観点は、アメリカと中国の板挟みになっているドイツが、どちらをより根本的なパートナーと見なしているのかでしょう。すると、やはりEUNATOに留まることの方を大前提とし、その上で何とか中国との関係をそれに相応しいものに調整すべく努力しているという印象です。逆ではないでしょう。したがって基本的には中国から離れつつあるドイツということにはなると思います。
経済の面では、ドイツとしてはアメリカや他のEU諸国による中国批判が強まる前に、EU議長国として基本的な枠組みを作っておきたいところでしょう。マース連邦外務大臣から出たヨーロッパとアメリカの目的の共有というのは、今のところは中国問題に関するアメリカとEU諸国との対立の克服という文脈で理解できます。しかしEU中国サミットの開催がさらにずれ込むと、そもそもドイツ以外の国が中国批判で一致しそうです。そろそろドイツもこの場合のシミュレーションを想定しておいた方がいいと思いますが。

脚注1
ttps://www.euractiv.com/section/eu-china/news/china-eu-summit-in-germany-postponed-due-to-coronavirus/
脚注2
ttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO43553460Q9A410C1FF2000/
脚注3
ttps://www.spiegel.de/international/europe/a-foreign-policy-conundrum-merkel-and-the-eu-trapped-between-china-and-the-u-s-a-cd315338-7268-4786-8cf7-dc302c192e5d
 脚注4
ttps://www.msn.com/de-de/nachrichten/politik/maas-will-eu-china-gipfel-m%C3%B6glichst-bis-jahresende-nachholen/ar-BB15vds6