世界時計

2016-04-17

第31回、個人旅行で飛行機にてベルリンに来る場合について、その2

 ドイツ名物の白アスパラガスが出回り始めました。これはわずか数か月だけの季節限定品です。ドイツ観光にはいいシーズンがやってきました。 
 さて、今回もテーゲル空港の話ですが、免税手続きについて取り上げます。本来ならばもらえないはずのスタンプを獲得するためのちょっとしたテクニックのお話です。あとは、日本人とドイツ人の違いについても触れます。
 
 ドイツの消費税は一般的には19パーセントです。日本人旅行者がショッピングをする際には自動的にこれを支払うことになります。しかしそのお店が書類を発行してくれるならば、この払い戻しを受けるチャンスがあります。それに必要事項を記入し、そして空港にある税関でスタンプをもらうことがその条件です。 
 この時にはEU圏内に特有のルールがあり、旅行中の最後のEU地域の空港でスタンプをもらうことになっています。したがって、ベルリンから例えばフランクフルトやパリまたはロンドンなどを経由して日本に帰国する場合、本来はそれらの空港でスタンプを押してもらいます。 
 しかし、この乗り継ぎの時間が非常に短い場合があり、そうするとスタンプをもらい損ねる可能性があります。また、空港には早めについておいて時間をつぶすのが普通ですから、テーゲル空港で手続きを済ましてしまう方が時間の有効利用にもなるでしょう。 
 さて、実はこの空港でも税関でスタンプをもらえることがあります。もしガイドや通訳と一緒に空港に行く場合はその指示に従ってください。そうでない場合は、これは運試しです。取り敢えずチャレンジしてみましょう。 
 テーゲル空港の税関は、メインホールを入ってすぐに見つかる黒い大きな掲示板の下を通り、その右側になります。(ちなみに左側は警察で、その二つの間の通路を通り右に曲がったところに、スーツケースが出なかった時のための受付があります。)この税関担当者がスタンプを押してくれればよし、そうでなければルール通りにEU圏内最後の空港の税関に行きましょう。 
 私自身がグループや個人のお客様をお連れする場合は、大体はうまく行きます。けれども年に一回ぐらいは堅物の担当者がいて、お客様に残念な結果をお伝えすることになります。 
 いずれにせよ、最初から頭ごなしに乗り継ぎ空港の税関に行くように指示されるということは少ないです。幾つか質問を受ける場合は、この時の受け答えによって担当者がスタンプを押す気になるように持って行きます。「フランクフルトの乗り継ぎ時間が短いのでここでスタンプをもらえるとありがたいです」というセリフはよく使います。 
 めでたくスタンプを押してもらえたとしましょう。Global Blueという会社の書類の場合は、税関の横の通路のところにある受付で手続きできます。とは言え、これもテーゲル空港が不便になってしまった事例の一つになりますが、現金で返してもらおうとすると一つの書類に付き3ユーロの手数料を取られます。クレジットカードがあるならばそれに入金してもらうか、または封筒に書類を入れて投函する場合は、その3ユーロは払う必要がありません。

 ここまでがテーゲル空港でスタンプを獲得して消費税払い戻し手続きを完了するテクニックについてです。以下はその一つの例ですが、もう一つのテーマである「日本人とドイツ人の違いについて」を含んでいます。 
 欧米には日本には無い「個人主義」が存在するとか、また「ドイツ人は厳格だ」というような言い方がありますよね。そうすると、「じゃあ日本式はダメなのか」とか「日本には日本の厳しさがあるのじゃないか」と考えたくもなりますが、そういったことについての一つの説明にはなるでしょう。 
 次にご紹介する事例は十数年の間に三回ぐらいありましたが、その中の最初の時のことを書いてみます。私は七、八人のお客様を連れて税関に向かったのですが、税関担当者は三人いて、そのうちの一人が他の担当者とはまったく異なる対応を取ったのです。 
 いつものように税関の部屋に入り、このグループはこれから日本に帰国するのだがここでスタンプをもらえるとありがたいと各担当者に伝えました。確か二人の担当者はすぐに了解してくれました。ところが、三番目の人だけはこれからどこを経由して帰国するのか、いつ日本を出発したのかなど、ゆっくりと事細かく聞いてきます。購入した商品だけでなく旅行中に宿泊したホテルでのルーミングリストも見せるように要求してきます。(旅行者ならばホテルに宿泊したはずで、各自がグループのメンバーならばそこに名前があるはずだということのようですが、これはここ数年でたまに聞かれるようになりました。また、現在では税関のところの自動ドアはなくなり、受付カウンターはフロアにむき出しになっています。したがって部屋の形にはなっていません。)  
 残りの二人の担当者はひたすらポンポンと書類にスタンプを押し続けるのに対し、この三番目の男性だけが「独自の調査」を続けます。後から思うに、この担当者が特に意地悪をしていたのでもなく、その時のお客様が「如何にもドイツ在住の日本人に見えるから」といった訳でもなく、ただ単に「調べるべきことは調べる」という原則で仕事をしていたようなのです。もし三人ともこういう態度だったならばわかりやすい話ですが、一人だけガチガチなので、私もその場では「この担当者はどういうつもりなのだろうか」などと考えてしまいました。 
 すべてドイツ語の質問なのでお客様の代わりに私が答えるのですが、もちろんこの方には何が起きているかはまったく伝わっていません。そこでそのお客様に一度部屋の外に出ることを提案しました。そして数分ぐらい時間をとり、改めて中に入って別の担当者のところに並ぼうとしました。するとその恰幅のいい担当者に、「あなた達はこっちにいたじゃないか」と呼び止められてしまいました。私は心の中で天を仰ぎ、その瞬間に他の担当者に視線を向けました。少し笑いを押さえていたような雰囲気でした。同僚の仕事ぶりがこの日本人にどのように受け止められていたかを理解していたのでしょう。 
 このグループは日本からの旅行者で、そしてこの空港でスタンプを得ても問題ないと他の二人の担当者は判断しているのです。ところがその隣にいる三番目の担当者はそんなことには一切お構いなく、ひたすらルール通りにそして自分のペースで確認し、そのために業務処理のスピードに大きな違いが出ているわけです。 
 あの税関の担当者達の場合は極端でしたが、ドイツでは二人の担当者のうちの片方がニコニコしていて片方が仏頂面というのはよくあります。以下はあくまでも私にとっての印象ですが、ドイツでは「紙に書かれたこと」を各自が厳格に守るように努力はしますが、それぞれの解釈に多少のズレがあっても気にしません。また、書かれたこと以外についてはそもそもあまり考慮しないようです。(その代わり、誤解の許されない部分については長文の説明が加えられます。) 
 日本の場合は「紙に書かれたこと」をそれぞれのグループがその場その場で解釈し、そしてその「統一解釈」の方への全員の一致が好ましいと考えるのが普通だと思います。(グループが違えば解釈にもズレが出るでしょう。)さらに、「空気を読む」ことによって直接「紙に書かれたこと」以外の部分で「一致」することもある程度は必要ですよね。その点では日本はドイツよりも厳密と言えるかもしれません。日本人による接客サービスは多分世界一でしょうが、それはここから来ていると解釈しています。 
 旅行をするときには名所旧跡などの「場所」もいいがそこに暮らす生身の「人間」を見たいという方には、テーゲル空港の税関「訪問」は一興かもしれません。普通の意味で幸運ならば、ここで消費税払い戻しの手続きができます。たとえそれがうまく行かなくても、人間観察の面で幸運ならば、日本ではお目にかかれないような担当者の振る舞いを見学できるでしょう。